乗鞍ヒルクライムへの道(仮)

Rule#32:Enjoy the Little Things.

北海道自転車旅(道東・桃岩荘編)その3

【3日目 知床~佐呂間】

朝起きてチェックアウトをする。外に出て自転車を置いてある場所に行き、出発の準備をする。外は小雨が降っていて少し肌寒い。天気予報を確認すると雨は早々に止みそうだった。その為、レインウェアは着込まずに5:30に出発。

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少し走るとオシンコシンの滝に差し掛かる。オシンコシンの滝は海岸線のすぐ近くにある。それほど高さのないところから大量の水が落ちている。滝を眺めながら今日の予定をこなせるかどうか考えていた。昨日一昨日はそれほど疲れは感じを今日は強く感じているのにも関わらず、今日のルートは昨日一昨日よりもハードだった。今回の旅の中で1番と言っていいだろう。知床から斜里まで移動、そして川湯温泉を経由し、摩周湖屈斜路湖、美幌峠を抜けて佐呂間まで行く。峠越えありの205km。なかなか厳しいけど無理ではない。予定通りに走ることに決めて再び走り出す。まずは、斜里にある天に続く道を目指す。天に続く道とはその名の通り、地平線の先まで道が続いているというまさしく北海道を象徴するような浪漫溢れる場所である。

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次第に雨も止み、順調に進んでいく。途中で追い抜いて行った原付の旅人が落としていったと思われる寝袋の下に敷くマットを見つける。どうしたものかと思ったけど、持ち主が途中で気づいて折り返してくるかもしれないと思い拾い上げてしばらく走る。どうも引き返してくる気配がなさそうだったので、目立つ場所にマットは置いていくことにした。天に続く道も間近に迫ってくる頃、道路脇に目をやるとジャガイモの山があった。北海道と言えばジャガイモだけどここまで山のように積まれているのは初めて見た。

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天に続く道に到着。始点からその道を望むと真っ直ぐに地平線の彼方まで伸びていて終わりが見えない。壮大な景色なのだが、問題はこの道をこれから走らなければならないということだ。バイクや車ならまだしも、自転車で走るとなると永遠とペダルを漕ぎ続けることになるのではないかとすら思えてきて笑えてくる。更に問題だったのは天に続く道の辺りには天に続く道以外にも天に続いてそうな道が縦横無尽に走っていたことだった。周りを見渡せば広大なジャガイモ畑、本当に進んでいるのかどうかすら怪しく感じた。

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昨日一昨日の疲れもあって今日はペースが全く上がらない。朝食もしっかりとっていなかったので、そろそろセイコマを見つけて休憩したいところ。しかし、そんな中で盛大に道を間違える。また、やってしまった。以前にも同じようなルートミスをしたころがあったが、その時よりもましな距離なのは不幸中の幸いだ。ハンガーノックになりかけているのを感じながら、セイコマに向かうもいつまで経っても天に続いてそうな道がひたすら続くだけでセイコマになかなか辿り着かない。もう駄目かと思ったところでセイコマに駆け込むことができた。

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震災の影響で停電からは復旧してきているものの、物流がまだ回復してなく弁当類は全くない。パンやブドウや白菜の漬け物等を買って補給する。おそらく自転車で走っていてコンビニでブドウや白菜の漬け物を買うことなんて今回限りだと思う。チーズ蒸しパンとかミルクコーヒーとか北海道っぽさを取り入れるというよくわからない試みを無意識の内にしていた。とにかくこれでまた走り出せる。ただ、道を間違えた関係でこのまま予定通り川湯温泉に向かうには少し時間が足りない。その為、川湯温泉は諦めてそのままサロマ湖方面へと移動することにした。

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網走に入ってしばらくするとサロマ湖と美幌峠の分岐に差し掛かる。時間を確認してみると美幌峠を登って屈斜路湖を見て折り返すくらいの時間はありそうだった。少し迷ったが、どうせなら行ってみようという気持ちの方が強かったので思い切って美幌峠に向かうことにした。平坦な道を淡々と走って行くと途中で何かが落ちた音が。止まって確認してみるとパニアバッグを荷台に固定する部品が1つ壊れて落ちていた。何とか直せないものかと考えてみたが、すぐに無理だとわかって途方に暮れる。色々と試してみたところ、幸い走行には支障がなさそうだったのでそのまま走り出す。限界が差し迫ってくると不具合というものは一気に出るものだと感じる。そういった意味ではまだまだ油断はできない。もうこのパニアバッグは限界を迎えていると思うけど、倒れる一歩手前で踏ん張ってくれているようにも見えてありがたさを感じた。

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再び走り出して少しすると、美幌峠の本格的な登りが始まった。疲れが溜まっているからか知床峠よりも手強く感じる。そういった疲れを上手くごまかしながら登っていく。長い距離をいかに故障せずに楽に走るかという点でいうのであれば、ペダリングをどうするかというのが1つの極意なんじゃないかと思う。疲れてくると身体の軸がぶれてペダリングも乱れてくるけど、そういう時こそより一層ペダリングに意識を向ける。そもそも必要以上に疲れないようにケイデンスは高く維持するし、踏み込む脚の力の入れどころや反対の脚の力の抜きどころを意識する。身体の重さと重力を上手く使えるように心掛ける。

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そんな感じで美幌峠を登っていったら、頂上付近で下って来たライダーから「頑張れー!」と大きな声援をもらった。不思議と力が湧いてきてペースも上がり、何とか美幌峠を登り切れた。普通、峠を登っていてライダーからこんな声掛けをしてもらえることってない。旅人同士の距離がこんなにも近いのは北海道ならではだと思う。一昔前なんかは旅人の数も多くてハンドサインをするだけでも腕が疲れてしまっていたらしいが、今ではもうその数も減ってしまっていてそんなこともなくなってきている。流行り廃りというものがあるので仕方がないことだけど少しだけ寂しさのようなものも感じる。まだ北海道には過去に根付いた風土や文化が残っているけどいつまでもそのままの形で残っているとも限らない。だからこそ、そういったものに触れることができる瞬間は精一杯楽しむつもりで進んでいこうと思った。

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美幌峠の展望台からは屈斜路湖が綺麗に見えた。朝は小雨模様だったが、今は方角によっては晴れ間がのぞいている。写真を撮っているとバスツアーの団体が来て少し賑やかになった。ガイドさん達としばらく会話を楽しむ。

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ガイドさん達の情報によると売店のあげいもと三角パックの牛乳が美味しいとのことだったので買ってみることにした。牛乳は最後の1パックを自分の為に残しておいてくれていてありがたいやら申し訳ないやら。停電の影響で飲めていなかったこともあって牛乳はとても美味しかった。色々と話をしていると皆口を揃えてサロマ湖の夕日が綺麗と言っていたので見てみたくなった。時間を確認すると頑張れば何とか間に合いそうだったので急いで下ることに。

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途中でローソンに寄ると依然として弁当類が全くない状態だった。やはり物流がまだ復旧していないが、きっともうすぐのはずだ。震災の当日から北海道に来ていることもあって復旧の様子がよく見て取れる。なんだかんだで猛スピードで復旧が進んでいるところをみると人の力って本当に凄いと思える。

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外に出てサロマ湖に向かって走っていくと段々と空が赤く染まっていく。サロマ湖に着く頃には丁度夕日が沈む時間だ。地図で調べるとキムアネップ岬という場所が良さそうだったのでそこで見ることにした。

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夕日が沈んでいく、沈み切る直前には太陽がより大きく見えた。観光名所はたくさんあるし、目的地としてそこを設定することは多くあるけど、そういったものはきっかけに過ぎないのかもしれないなと思う。例えば最北端の宗谷岬を目的地にして旅をしていた場合、
どこでもドアで一瞬で宗谷岬まで行ってしまったら「ふーん」で終わってしまうかもしれない。結局のところ、そこにたどり着くまでにどんなことがあってどんなことを考えたか、どんな人に会ってどんな話をしたか等に色付けされて目的地としての意味を持つようになるのだと思う。今日の宿はライダーハウス、18:15に到着。震災の影響か時期的なものか、宿泊者は少なく、自分の他には1人だけだった。荷物をベッドに置いて風呂に入ってから共有スペースでくつろぐ。

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夕食の主菜はカボチャのコロッケ、美味しかった。ビールを他の宿泊者の方から頂いた。夕食からその後のお茶会という名の飲み会まで、宿のご主人と奥さん、お手伝いさんも含めてみんなで談笑。震災のあった日はこちらの宿も営業はしていたとのこと。電気が通っていなくてもガスと水道に影響が無ければ何とかなるようだった。こういった時に旅人さんは自分でライト等の緊急時に役立つ装備を持っていることが多く、案外心配がいらなくて頼もしく思えたと奥さんが言っていた。電話回線もアナログだった為、使えていたらしい。こういった災害時にはアナログなものほど強いものなのかもしれない。

停電については原子力発電所が停止しているのもあり、1つの大きな発電所稼働率を高めて対応していたこともここまで停電が長引いた原因なのではないかと言っていた。新たに発電所を建設している最中の今回の震災だったとのことで、タイミング的にも悪かったと言えるのかもしれない。100%の力で日々を回しているといざという時にどうにもならなくなってしまう。世の中の色んな物事に余裕が無くなってきていると感じるけど、負担を1箇所に集中させずにある程度余裕を持たせておくことができないと、目の前のことだけに囚われてしまい、先を見越した行動も取り辛くなっていく。他の宿泊者の方は自分よりもいくらか年配の方だったが、近年旅人が減ってきているのも昔ほど世の中に余裕が無くなってきたことも原因の1つにあるんじゃないかと言っていた。色んな要因があると思うけど確かにそうなのかもしれない。
明日以降のルートについて、情報が不足していたので色々聞いてみると親切に教えてくれた。紋別のカマボコやオコッペのアイスが美味しいこと、カニの爪のモニュメントのこと、利尻島のラーメンやミルピスの話、礼文島の美味しいホッケ屋の話、そして桃岩荘の話。直接現地の方や旅をしている方に話を聞きながら予定を決めていけるようになると旅が軌道に乗って来たと感じる。ガイドブック等を見て行き先を決めていくのとは違って、
今しているこの旅だからこその要素が詰め込まれていくような感覚で面白い。ある種の不確定要素みたいなもので、必ずしも予定通りにいかない方が内容が充実することもあるということを暗に示しているような気がする。

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走行距離:218km

~続く(多分)~