北海道自転車旅(道東・桃岩荘編)その7
今日はいよいよ愛とロマンの8時間コースにチャレンジ。桃岩荘のヘルパーさんが車でバス停まで送ってくれた。そこからバスでスタート地点のスコトン岬まで移動。風光明媚な礼文島の西側をひたすら南に歩いて桃岩荘まで自力で帰ることになる。なんと距離は30kmあるらしい。なかなかハードで歩き応えのありそうなコース。
スタート地点のスコトン岬。日本列島最北端といえば宗谷岬だけど、ここは「日本」最北端。
ここより北は北方領土の樺太。最近では漫画ゴールデンカムイの舞台になったりもしてる。日本に近くて遠い島。
スコトン岬の売店ではトド肉まんが売っている。こういう物珍しいのが売ってるとついつい買ってしまう。印象は普通の肉まんといった感じ。「これがトドの味かー!」みたいなのは特になかったけど美味しかった。
売店では少ないながらも他の観光客の方もいた。今日一緒に歩いてくれる大学生は沖縄っぽい顔立ちなんだけど、沖縄出身ですかとまじまじと聞かれていて笑ってしまった。どうやらよくあることらしい。
大学生と話をしながら礼文島の海岸線を歩いていく。自分は自転車だけど彼はバイクで旅をしている。共通の話題と言えば旅の話、これまでどんなところに行ったとか、どこが良かったかとか。そんな他愛のない話を歩いていく。
他にも部活のこととか卒論の話とか色々聞かせてもらった。今振り返えると彼が人当たりの良いタイプだったおかげで終始楽しく歩くことができたように思える。そのことについて今更ながら感謝している。
事前に桃岩荘のヘルパーさんから聞いていたので知ってはいたものの、途中の海岸では穴の開いた貝がたくさんあって面白かった。
なんで穴が空いているのかというと、ツメタガイという貝の仲間が貝を食べる為に溶かしてしまうからだそうだ。同じ貝なのにそんなことをするなんて。
ここは澄海岬というらしい。澄んだ海の岬なんてここにぴったりな名前だなと思った。この日は空も綺麗だったのもあって読みがSKYなのも何だか粋でいいなと感じた。
ひたすら歩く、礼文島の景色を満喫しながら歩く歩く歩く。そんな感じで歩き続けていると段々と空腹感が出てきた。そろそろ桃岩荘名物の弁当の出番。
そんな時にちょうど開けた場所に出たのでそこで休憩することに。弁当はこれでもかというくらいご飯がぎゅうぎゅうに詰められていてボリューム満点だった。弁当から「30km歩くにはこれくらい必要だろ?」という声が聞こえてきそうな感じだ。景色が良かったのも隠し味になってか弁当は美味しかった。
コースには海岸すれすれのところもあって何だかアドベンチャーな感じ。目の前に広がるのは自然が作り出したものだけ。
ようやく宇遠内(ウエンナイ)まで到着。ここの売店から電話で桃岩荘に一度連絡をすることになっている。コーラを飲みながら売店のおばちゃんと色々話をした。覚えているのはおばちゃんのおすすめの本がパール・S・バックの「大地」だったということ。いつか読んでみようと思って買ったんだけど今のところ本棚に眠っている。
ウエンナイを出発してしばらくすると段々と日が落ちてきた。遠くに見える利尻山が少し赤みを帯びてきている。
「愛とロマンの8時間コース」といっても実は実際のところ予定通りでも11時間近くかかる。ここまでそこそこ良いペースで歩いてきたつもりだったけど、桃岩荘まではやはり11時間くらい掛かりそうだった。思っていたよりもハード。少し甘く考えていたのかもしれないと思った。
礼文島には礼文島にしか咲かない花がある。それはレブンウスユキソウだ。シーズンが過ぎていたので諦めていたけど、群生地でまだ形を残しているレブンウスユキソウを見つけた。もう二度と見るチャンスはないかもしれないと思うと不思議と幸運に思えた。
果たして、再び「花の浮島」とも呼ばれるこの礼文島に来れることはあるのだろうか。
トンネルを抜け、桃岩荘の近くまで来た時にはあたりはもう暗くなってきていた。事前にヘルパーさんからこの辺りまで来たら連絡をするようにと指令が出ていたので電話をした。
桃岩荘まで歩いていくと大きな声で「おかえりなさ~い!」とヘルパーさん達が出迎えてくれた。姿が見えてから玄関前に到着するまで何度も何度もパワー全開で。「ただいま〜!」と返す。無事に帰れて良かった。
桃岩荘に着いてから大学生と玄関で記念写真を撮った。この写真は大切にしようと思う。全く知らない人といきなり11時間歩くって普通はなかなかないことのような気がする。これも何かの縁なんだろうなと思うし、見えない絆のようなものも得られた気がした。
風呂に入ってから桃岩荘の食堂で豚丼を食べた。30km歩いて疲れていたので、豚肉がバーナーで炙られているのを見ながらボーッとしていたような気がする。
新鮮という意味では今回の旅ははじまりから相当新鮮なものだったように思う。いきなり停電でのスタートだったからね。そこ新鮮さから最初はとまどい不安を覚えた訳だけど、いつのまにか楽しさに変わっていた。数日でこんなに変わるものなのかと不思議にすら感じる。先の見えない状況でも、歩みを止めなければどこかでパッと視界が開けるようなこともあるのかもしれない。
寝る前には、桃岩荘に来た日が一緒だった人が「これでお別れだから」と挨拶に来てくれた。知り合いに似ていたのでとても親近感が湧く人だった。1年半旅しているって言っていたけどそれが長いのかはたまた短いのか、もうよくわからない感じがした。桃岩荘というか礼文島そのものがある種の桃源郷のように思える。ここにはここだけの時間が流れている。でも確かなのは明日でそれも終わるということ。
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